ワルプルギスの夜
「Warplgis」と綴られる。8世紀頃英国生まれの聖女だそうな。彼女の担当は「魔よけ」「悪魔祓い」で5月1日が「ワルプルギスの日」にあたる。封じられる側の悪魔や魔女たちも黙っていない。「ワルプルギスの日」の前の晩つまり4月30日の夜に対策会議を開くのだ。会議といってもノリはほとんど宴会。場所はドイツ・ブロッケン山(標高1142m)だ。この事前対策会議のことを「ワルプルギスの夜」と呼んでいる。対策なら前の晩ではなくてもっと時間をかけたほうがいいと思うのだが、そこは魔女である。さらには時間的に「夜」の直前に相当する「黄昏」もある。「ワルプルギスの黄昏」といえば、宴会本番前の小手調べ代わりの小さな騒ぎのことを言うらしい。開宴が待ちきれない輩はどこの世界にもいるようだ。
出席者たちは世界中からホウキに乗って集まる。ベルリオーズ意中の人もこの宴会に参加していたことは、幻想交響曲の第四楽章で明らかである。4月30日の夜ホウキが無くなるようなら相当怪しいと思われる。欧州各地にこの系統の言い伝えがあり、実質は人々が春の訪れを喜ぶ祭りである。単にお酒を飲む口実だったりもする。つまり北海道同様に欧州の春は5月からなのである。
実はブラームスの作品にもズバリ「ワルプルギスの夜」というタイトルのものが存在する。作品75-4「Warplgisnacht」だ。母と子の会話体のテキストだ。昨晩の嵐は凄かったという子供の問いかけから始まる。ブロッケン山で雷が鳴っていたねとたたみかける。母は「魔女たちが集っていたからね」と答える。子供は好奇心に任せて母に質問する。「魔女を見たことがあるか」「魔女の乗り物は何か」という具合だ。やがて「昨晩煙突で音がした」「我が家のホウキが昨晩無くなっていた」とエスカレートし、実は母親が魔女だったと判明するのだ。実際に作品を聴くと切迫した調子のイ短調4分の2拍子であっという間に通り過ぎる。ユーモラスなニュアンスのないデュエットだ。ちょっとした「スリラー仕立て」である。
妻ありし日のことだ。3人の子供を連れて妻の実家に里帰りした。ちょうど妻の妹も子連れで来ていた。幼な子6人に振り回される嵐のような1日を終え、子供たちを寝かしつけた後、妻と義妹と義母三人で夜10時頃にケーキでお茶をするのが日課になっていた。1日の出来事を話しながら時には小一時間にも及んだ。このお茶の時間の事を彼女たちは「魔女の時間」と呼んで楽しみにしていた。1日の疲れを癒し、また翌日の育児戦争に備える彼女らなりの儀式だったのだ。我が家の「ワルプルギスの夜」である。
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<ゆかり様
今晩留守にするご婦人は、魔女かもしれません。
たまには魔法にかかってみたい。
投稿: アルトのパパ | 2007年4月30日 (月) 15時34分
なぁ~んてステキなお話でしょう☆
ご存じかもしれませんが、小さい頃、
私の夢は「魔女になること」でした。
どうやら、なり損ねてしまったようですが。。。(笑)
ブラームスでは、作品75-4。。♪
ワルプルギスの夜、ですね。 (にっこり)
投稿: ゆかり | 2007年4月30日 (月) 15時00分