4度跳躍
旋律の立ち上がりで4度の上行を伴う現象。思うにブラームス節の根幹の一つ。残念ながら著書「ブラームスの辞書」でもこのパターンを網羅列挙するには至っていないが、ブラームスの作品に親しむ人たちは、ウスウス気付いていると思われる。他の作曲家の作品における用いられ方を分析していないので、ブラームスの特質だとの断言は危険である。
真っ先に思いつくのは第1交響曲のフィナーレ。古来ベートーベンの歓喜の歌との類似が指摘されているあの旋律だ。ベートーベンとの類似ばかりが指摘されるだけで、人間の耳が何故にていると感じるかの掘り下げが甘い気もする。いきなりの4度跳躍は、いかにもブラームスっぽい。
弦楽六重奏曲第1番第2楽章冒頭、ピアノ四重奏曲第1番第3楽章冒頭、ピアノ協奏曲第1番第1楽章199小節目のホルンなど皆この系譜である。実はよく分析すると2つのパターンに分類できる。4度跳躍の間に小節線を跨ぐパターンとそうでないパターンだ。前者はつまりアウフタクト型である。第1交響曲のパターンを含め、先に列挙した3つは皆アウフタクト型だ。小節の頭、強拍上のトニカを強調することでガッシリと地に足の付いた安定感が指向されている。
アウフタクト型と非アウフタクト型には多分優劣などない。非アウフタクト型にもおいしい実例がある。ピアノ協奏曲第1番第1楽章第3主題385小節目「Poco piu Moderato」、歌曲「五月の夜」op43-2冒頭などがすぐに思い浮かぶ。アウフタクト型に比べて柔らかい印象。確信的というより幻想的である。
旋律の立ち上がりではないが、面白いケースがある。歌曲「野のさびしさ」op86-2の10小節目にG→Cという非アウフタクト型が存在する。この箇所の2コーラス目では、G→Cの4度跳躍の再現を予測する聴き手の思いこみを裏切ってG→Asという半音上昇にすり替えられる。27小節目の出来事だ。ブラームス節の根幹4度跳躍をおとりに使って、まんまと聴き手の裏をかく。このトラップをきっかけとした1小節の進行は、まさに「野のさびしさ」の白眉となっている。4月12日の記事「究極の6度」を準備する動きだと位置づけられる。
http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2007/04/post_66c9.html
昨日の祝賀気分を打ち払うガチンコネタのつもりである。
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コメント
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<とらねこ様
恐れ入ります。
本当はもう少し実証的な記事にしたかったのですが、データの裏付けが取れなくて、イメージ記事になってしまいました。
投稿: アルトのパパ | 2007年6月 2日 (土) 07時36分
眼から鱗。ホントですね。ブラームスにこの4度跳躍の多いこと!何気に聴き親しんでいる曲が、謎解きの様に解き明かされていく気がいたします。
投稿: とらねこ | 2007年6月 2日 (土) 07時06分