ほとんど無音
2005年7月5日の記事「ダイナミクスレンジ」とあわせてご覧頂きたい。
http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2005/07/post_96d4.html
ホルン三重奏曲第3楽章43小節目のヴァイオリンに「ppp quasi niente」と記されている。「niente」は「無」だ。「quasi」はほとんどなので「ほとんど無音で」となる。いやはや何とも嬉しい指定である。ギネスブック的に申せば、休符を除くブラームス史上最弱音と言える。そもそもホルン三重奏曲は用語使用面で特色が多いが本件はその最たるものである。
この場所はいわゆる主題再現部にあたる。ピアノは紛れもなく冒頭主題を再現しているがヴァイオリンはその先のホルンの主題を先取りする構造になっている。第1主題と第2主題が実は対位法的に統合し得るというさりげない仄めかしだ。だから第1主題が再帰する場所で、ほとんど無音に近い音量でかぶさるようにと意図されている。
音を出すという行為は本来積極的な行為であり、何らかのエネルギーの発露なのに、それをほとんど無音でと言うのはご無体な話には違いない。そうした無理難題ぶりも鑑賞の対象である。
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