長調のカプリチオ
ブラームスのピアノ小品の代表例としてインテルメッツォとともに紹介されることの多いのが、「Capriccio」(カプリチオ)である。静のインテルメッツォに対して、動のカプリチオというようなイメージである。好対照のイメージとは裏腹に数の上ではバランスが崩れている。18曲存在するインテルメッツォに対して、カプリチオは7曲しかないのだ。op116-7ニ短調のカプリチオを最後にプッツリと姿を消してしまうから、作品番号で言うと76と116の中にしか存在しない。
その作品76の8番目には、唯一の長調のカプリチオが存在する。一応ハ長調という触れ込みだが、全く油断が出来ない。なかなかハ長調のトニカが現れないのだ。トニカが現れないという意味では作品79-2のト短調のラプソディーに匹敵する。トニカを渇望する聴き手の心理を逆手に取った構成と言えなくも無い。それから拍子だって4分の6拍子ということにはなっているが、ちっとも落ち着かない。楽曲の冒頭のダイナミクスが「mp」というのは大変珍しいが、この曲見事に「mp」で始まっている。さらに曲中に「dolce」が出現するのもカプリチオとしては珍しい。
楽曲冒頭の「Grazioso ed un poco vivace」という指定は生涯唯一のものだ。作品119-3の同じハ長調のインテルメッツォに通ずるものがある。
作品76のピアノ小品集は全8曲から成り立ち、それが4曲ずつ1巻2巻とに分かれているが、元々はカプリチオ4曲とインテルメッツォ4曲でそれぞれが一まとめにされていたらしい。つまり作品76は、カプリチオとインテルメッツォが仲良く4曲ずつというバランスの上に成立しているのだ。
カプリチオとしては異例な出来事に溢れるせいか、ブラームスも不安だったらしく、クララ・シューマンに削除すべきか相談している。もちろんクララの答えは「削除不要」だった。だから今もこの曲が私たちの目の前に存在している。ブラームスが少し弱気になってクララに相談したのだ。万が一クララが「削除すべき」という意見を伝えていたら、ブラームスのことだから跡形も無く処分してしまっていたかもしれない。
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