水戸黄門状態
周囲の楽器を一段階以上低いダイナミクスに従えて、一人抜きん出たダイナミクスで演奏する状態の事を「ブラームスの辞書」ではしばしば「水戸黄門状態」と呼んでいる。
某テレビ局の長寿番組を踏まえた言い回しである。日本人相手であればこのニュアンスは、とても良く伝わるが、外国の方々に説明する際には骨が折れよう。
独奏楽器が際立ってこその協奏曲では当たり前に見られるのだが、協奏曲以外の管弦楽や室内楽にも時々現れる。ブラームス最高の「水戸黄門状態」は第1交響曲第4楽章30小節目「Piu andante」だと確信する。ティンパニ、チェロ・バス、トロンボーンおよびフルートを「pp」に控えさせて、ホルン一人が「f sempre e passionato」である。1小節目遅れて合流するヴァイオリンには弱音器さえ装着させて「空気になれ」と要求している。この8小節間「f」が許可されるのはホルンだけである。第4楽章に入ってからここに至る29小節間は混沌としている。その混沌がまさに頂点に達する瞬間に「この紋所が目に入らぬか」とばかりに立ち上がるホルンである。テレビでもこのセリフは、混沌めいた大立ち回りのシーンの最中に発せられるのが恒例である。
同じく「f sempre e passionato」を背負っていながら38小節目のフルートは、ホルンに比べればインパクトが薄い。ここは「pp dolce」のトランペットの方にこそ深い味わいがある。
周囲の楽器のダイナミクスより一段へりくだったダイナミクスを強制される「金管打抑制」の正反対のスコアリングテクニックである。
水戸黄門こと徳川光圀の誕生日は、もちろん旧暦なのだとは思うが、何と7月11日とされている。つまり明日だ。私の著書「ブラームスの辞書」の刊行日とピッタリ重なっている。
« トラックバック公開のルール | トップページ | 刊行2周年 »
コメント