有節歌曲
テキストの詩節ごとに同じ旋律が繰り返しあてられている歌曲のこと。日本でも、広く知られた童謡は大抵この形だ。各節とも旋律が完全に同じなので楽譜にはリピート記号が当たり前に見られる。
ブラームスは、作曲を学ぶ初期の段階で、有節歌曲の作曲を意義あることと思っていたらしい。テキストを見て、それが有節歌曲として処理できるかどうかを見抜く眼力をも作曲家に要求している。
狭い意味での有節歌曲は、各節での旋律はもちろん伴奏まで完全に同じ形の繰り返しになっている。伴奏パートへのアーティキュレーションその他の指示は、最小限にとどまる。ヘルムート・ドイチュ先生は、伴奏パートへの指図が薄いことを、テキストに応じたニュアンスをピアニストのセンスで補わねばならぬと力説しておられる。
ブラームスにもこうしたパターンの歌曲は、もちろん存在するが、伴奏やアーティキュレーションを詩節毎に微妙に変えているケースが大変多い。それどころか旋律までもが微妙に変化されていることさえ珍しくない。3歩下がって全体を俯瞰すれば、紛れも無い有節歌曲なのだが、仔細に見ると色合いや肌触りが微妙に違っているのだ。そして、その微妙な違いは、全てテキストのニュアンスに応じたものになっている。転調であったり、伴奏音形の変化だったり、テンポの上げ下げだったり、あらゆる手段を利用してテキストの陰影を浮かび上がらせようとするのだ。このあたりのテキストと伴奏の絶妙の出し入れがブラームスの歌曲の魅力の源泉である。だから、ブラームスにおいては楽譜上にリピート記号が無いことをもって、有節歌曲では無いと断言することは出来ない。
全体が有節歌曲の体裁を保っているからこそ、微細なニュアンスの出し入れが際立つのである。結局これらはみな、ブラームスの変奏曲好きな性格に繋がっているのだろう。しかも、ただ主題を美しく変奏すればいいのではない。「テキストのニュアンスや抑揚をなぞりつつ」という制約があることが、ブラームスの好みだったと思われる。
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