息も絶え絶え
インテルメッツォop117-3の結尾も近い105小節目に出現する「ritardando molto ed egualemente」の訳語として提案したい。103小節目の「Piu lento」でかなり遅くなっている上に念を押す形で置かれている。提示部の41小節目と呼応しているが、提示部には「ritardando molto ed egualemente」の指示は無い。43小節目と105小節目を比較すると旋律線の嬰ヘ音が16分音符2個分長く引き伸ばされている。テンポ通りに弾いたとしても自動的にテンポが落ちて聴こえる「オートマチックリタルダンド」が仕組まれているというわけだ。念のためテンポを落とす指示が置かれることになるが44小節目では単に「ritardando」にとどまる一方、105小節目では「ritardando molto ed egualemente」に格上げされているわけだ。つまり「提示部のときよりもっとね」の意味を濃厚に含んでいると解される。
おまけにこの「egualemente」たるやブラームスの生涯で唯一の使用例である。手元の音楽用語辞典には「平静に」とある。「ritardando」を「molto」で煽っておきながら「平静に」も無いものだ。「tranquillo」では用が足りないとブラームスが感じていた証拠と解したい。
抜き差しならないニュアンスが充満している。並みの解釈では底が知れてしまう。この場所に挑む際の心得も唯一無二でなければなるまい。だからあえて「息も絶え絶えに」なのである。
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