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2007年9月26日 (水)

ヘ短調

興味深い記述を見つけた。

音楽之友社で刊行している「作曲家◎人と作品」というシリーズの中の「ブラームス」(西原稔著)の139ページ後半だ。

ブラームスが第2交響曲の完成間近になって友人たちにそれを伝える手紙を書いたそうだ。親しい間柄を象徴してかブラームスは独特の皮肉な表現を用いている。第2交響曲を「きわまりなく悲劇的でメランコリック」と紹介している。その感じのたとえに「ヘ短調」が引用されている。複数の友人たちに「ヘ短調」というたとえを用いている。

ニ長調の薫り高き第2交響曲を逆説的に「悲劇的でメランコリック」と称するのは、ブラームスによくある表現だ。それはそれで微笑ましい。問題は「悲劇的」「メランコリック」それも相当深刻なケースのたとえに「ヘ短調」が繰り返し用いられていることだ。

ご存知の通りの第2交響曲はニ長調の陽光まばゆい作品だ。はっきり言って明るいのだ。いたずらとはいえ、いやいたずらだからこそ、その対極であることを友人たちに説明するために、数ある短調の中からヘ短調が選ばれたことは重要である。友人たちに「悲劇的でメランコリック」だということを何とかして伝えるために一番効果的だとブラームスが考えていたことに他ならない。このときまでに成立していたヘ短調の作品は下記の通りである。

  1. ピアノソナタ第3番op5
  2. 「夜中に何度飛び起きたことか」op32-1
  3. 「光も輝きも何と早く消えうせることか」op33-11
  4. ピアノ五重奏曲op34
  5. 二重唱曲「エドワード」op75-1

ブラームスがヘ短調に対して抱いていた感じがおぼろげながら想像できる。特に上記のうちの5番目は、作品10-1ピアノのためのバラードの下敷きとなったテキストがテノールとアルトによって歌われる二重唱だ。「父殺しを息子に問い詰める母」という陰鬱な内容をトレースするための選ばれたのがヘ短調だということになる。実際に歌詞が歌われることのない作品10-1ではニ短調だったが、こちらはいっそう生々しい効果を狙った結果だと思われる。

おそらくヘ短調に限らず全ての調に同様な具体的イメージを持っていたことは想像に難くない。

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