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2007年10月10日 (水)

10度の跳躍

10度の音程と言えばかなりの間隔である。ヴァイオリンのA線の開放弦を基準にした場合、10度上の音は上に仮線を2本足して、その2本目に串刺しにされている「C」の音になる。つまり「3度上のオクターブ上」である。ピアノではなかなか届かない幅だろうが、届くと便利なのは事実だ。

ブラームスが好んだ「3度」「6度」の音程と密接に関係している。ヴァイオリン協奏曲第1楽章にはしばしば10度の音程を重音で取る場面が現れてヨアヒムを心配させた。下の音が開放弦で無い場合は、よいしょとばかりに指を拡張しなければならない。ポジションが低いほど拡張幅が大きくなる。

この間隔の乱高下は弦楽器やピアノにとどまらず、管楽器にとっても厳しい。クラリネットソナタには、クラリネット吹きには厄介な10度の跳躍が散りばめられている。

  1. 第1番第1楽章 6小節目。第一主題の2小節目のF→As
  2. 第1番第1楽章 8小節目。第一主題の4小節目のB→Des
  3. 第1番第2楽章 5小節目。第一主題の5小節目のF→As
  4. 第1番第2楽章 53小節目。第一主題再現の5小節目のF→As
  5. 第2番第1楽章 4小節目~5小節目。第一主題F→As 
  6. 第2番第1楽章 8小節目~9小節目。第一主題F→As
  7. 第2番第1楽章 106小節目~107小節目。第一主題の再現F→As
  8. 第2番第1楽章 110小節目~111小節目。第一主題の再現F→As

上記8例はいずれも「一つのフレーズが終わって、次のフレーズが10度上から始まる」のではない。一つの旋律の中に10度の跳躍が織り込まれているのだ。ブラームスの作品で同一の旋律線内における3度や6度の進行は珍しくないが10度の跳躍はさすがに珍しい。その珍しい例がクラリネットソナタに集中しているのは特徴的である。リヒャルト・ミュールフェルトの腕前に敬意を表してのことかもしれない。

しかも上記8例中2番以外の7例が「F→As」の10度である点特筆物である。ヘ短調で書かれている1番の第1楽章に存在する上記1,2番は「さもありなん」だが、それ以外の6例全てが「F→As」になっているのは、鮮やかでさえある。ブラームスの得意技「FAF」の投影さえ疑われよう。ブラームス関連書籍の中で頻繁に言及される「FAF」だが、この点を指摘しているケースは見当たらない。

これらの10度跳躍はブラームス本人によるヴィオラ版にもキッチリと保存されている。

10月10日にピッタリの話題である。

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コメント

<インテルメッツォ様

10度の持つ美しい響きは、もちろんですが、演奏するにあたっての指の痛さ(=非日常性)も狙いのうちかもしれません。

手の小さい私がヴァイオリンで10度の和音を弾く時は、指がちぎれるのではないかと思う程痛い思いをせねばなりません。しかしこれが上手く決まると、この痛みと引き換えのようにとても美しく響きます。
ブラームスもこの美しい響きを引き出したいがために、演奏家に試練を与えたのでしょうか。

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