喉を鳴らす仔猫
1894年11月。ブラームスは出来たばかりのクラリネットソナタをクララに聞かせるために、ミュールフェルト等第一級のメンバーとともにフランクフルトを訪れた。
ミュールフェルトのクラリネット、ブラームスのピアノによるアンサンブルだ。聴覚の衰えが見られるクララはピアノを弾くブラームスの隣に座って譜めくり役となった。ブラームスは楽章ごとにクララの顔を覗き込み次に進む許可を得ながら弾いたという。
これらの光景があたかも見てきたように再現できるのは、当時18歳になっていたクララの孫フェルデナンドが書き残した日記のおかげである。18歳の少年は当時すでに作曲界の大御所であったブラームスを「彼は喉を鳴らして甘えている柔らかな仔猫のようだ」と評している。さすがのブラームスもクララの前ではこんなモンだったのだ。ブラームスの健気さが余すところ無く伝えられているばかりか、年老いてなお毅然としたオーラを放ち続けるクララの姿さえ髣髴とさせる。
このときヨハネス・ブラームス61歳。猫なら化けている年頃かもしれない。
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