調性選択の三角形
第1交響曲の各楽章の調性を思い浮かべて欲しい。
- 第1楽章 ハ短調
- 第2楽章 ホ長調 前楽章より半音4個上。
- 第3楽章 変イ長調 前楽章より半音4個上。
- 第4楽章 ハ短調 前楽章より半音4個上。
一般に解説書ではハ調を中心に上下3度の調で構成されているという対称性に言及されることが多いが、本日は角度を少し変えてみる。
ハ調を基準に「長3度」ずつ上の調が順次選ばれて元のハ短調に戻っているのだ。こういう例はブラームスの4楽章の作品において他に例が無い。あたかも一辺が半音4個で構成された正三角形のようだ。ブラームスで正三角形はこの1曲だけである。
ちなみに第2交響曲は直角三角形だ。
- 第1楽章 ニ長調
- 第2楽章 ロ長調 前楽章から半音3個下
- 第3楽章 ト長調 前楽章から半音4個下
- 第4楽章 ニ長調 前楽章から半音5個下
各辺の比率が3:4:5であるから、ピタゴラスの定理によればこれが直角三角形だということが判る。第2交響曲以外で直角三角形になるのは以下の通り6曲あるのだが、第1交響曲のような正三角形は他に存在しない。
- 弦楽六重奏第1番
- ピアノ四重奏曲第1番
- ピアノ四重奏曲第3番
- ピアノ五重奏曲
- 弦楽四重奏曲第1番
- 弦楽四重奏曲第3番
直角三角形のパターンは「3度関係2回と4度(5度)関係1回」と言い換えることが出来る。これを楽章の調性選択のパターンとして見るとき、ブラームスお得意の「3度」を長短各1回ずつに「4度または5度」という古典的な選択を各1回ずつブレンドしたと見ることが可能だ。何かとバランスのとれたこのパターン、実は第2交響曲を最後にパッタリと姿を消す。
代わって台頭するのが「直線型」である。中間楽章に第1楽章と同じ調もしくは同主調の採用が目立って来る。あるいは第2楽章と第3楽章で同じ主音が採用される。つまり上記のお遊びのルールに従った三角形が作れないのだ。いわゆる「三角形不成立型」である。さらに仔細に見ると面白いことが判る。ブラームスにおいてソナタの中間楽章に来る舞曲楽章は、けして第1楽章と同じ調性が現われないのだ。古典派のしきたりとの大きな違いである。古典派の慣習では、舞曲楽章は主調で書かれるのが普通だから、古典派のソナタは「三角形不成立型」なのだ。以下に挙げるブラームスの「三角形不成立型」は古典派のそれとは、舞曲に主調が現われないという一点において、一線を画している。
- ピアノ協奏曲第2番op83(Bdur-Dmoll-Bdur-Bdur)
- ピアノ三重奏曲第2番op87(Cdur-Amoll-Cmoll-Cdur)
- 交響曲第3番op90(Fdur-Cdur-Cmoll-Fmoll)
- 交響曲第4番op98(Emoll-Edur-Cdur-Emoll)
- ピアノ三重奏曲第3番op101(Cmoll-Fmoll-Cdur-Cmoll)
- ヴァイオリンソナタ第3番op108(Dmoll-Ddur-Fismoll-Dmoll)
- 弦楽五重奏曲第2番op111(Gdur-Dmoll-Gmoll-Gdur)
- クラリネット三重奏曲op114(Amoll-Ddur-Adur-Amoll)
- クラリネット五重奏曲op115(Hmoll-Hdur-Ddur-Hmoll)
- クラリネットソナタ第1番op120-1(Fmoll-Asdur-Asdur-Fdur)
- 第2交響曲を境に、四楽章形式のソナタにおける調性選択のロジックが変わった可能性を考えたい。
- 「三角形不成立型」は初期にも現れるから、初期から中期にかけては「三角形成立型」との混在だ。
- 古典派の伝統もこの「三角形不成立型」だが、舞曲楽章が主調でないという点で、ブラームスの「三角形不成立型」とは区別が必要だ。
鹿島アントラーズの優勝を喜ぶガチンコネタである。そうでもしないと今日ばかりは鹿島ネタが爆発しかねない。
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<魔女見習い様
ありがとうございます。
でも、それだけにします。「ブラームスの辞書」ではなくなってしまいそうですから。
投稿: アルトのパパ | 2007年12月 2日 (日) 16時03分
鹿島アントラーズの歴史的な逆転優勝、
おめでとうございます☆
投稿: 魔女見習い | 2007年12月 2日 (日) 15時44分