平均律クラヴィーア曲集
言わずと知れたバッハの金字塔。24曲ずつからなる2巻で構成されている。BWVで申せば846から893までの48曲だ。ピアノの「旧約聖書」という比喩はことに名高い。
現在ではピアノの調律法として当たり前にもなってしまっている平均律だが、バッハの当時は、その可否を巡る議論が盛んだった。「C」を基準に5度ずつ上に音を辿って行く。「C→G→D→」という具合だ。この操作を12回繰り返すと「His」に届く。「Hのシャープ」だから実音「C」だと納得してはいけない。出発点の「C」から見て7オクターブ上の「C」にはならないのだ。あるいは3度の堆積で考える。「C→E→Gis→His」という具合に3度跳躍を3回繰り返してたどり着く「His」はこれまた「C」そのものではない。
つまりそれらの異名同音のズレをどう吸収するかについて数種類の調律法があり、平均律はそのうちの一つだったという訳だ。「C→E→Gis→His」という3度堆積で言えば、両端の「C」と「His」を完全なオクターブだと見なすことによって生じる誤差を、オクターブ内の全ての音程に広く薄く転嫁することと言い換えうる。
複数の調律法間の論争の中にあって、バッハ自身は平均律を支持を打ち出した。「平均律ならば、どんな調でも同じように作曲出来るンですよ。ほれこの通り」とばかりに取り出して見せたのが「平均律クラヴィーア曲集」なのである。
ここから延々と曲目解説に走らないのがブログ「ブラームスの辞書」である。
ブラームスからピアノを教えられた人々がしばしば、バッハの平均律クラヴィーア曲集を教材に使ったと証言している。あるいは、レッスンの合間に時間が空くと気分によってはブラームスがピアノを演奏してくれたという証言もある。こういう場合、自作を弾くことは滅多に無かったとも言われている。レッスンのちょっとした合間に平均律クラヴィーア曲集から1曲2曲を見繕ってサラリと弾くとは、風流の極致である。超絶テクニックてんこ盛りの作品を選ばぬという余裕のかまし方が素敵だ。そして何よりも多くの場合暗譜であったという。
ブラームスは「平均律クラヴィーア曲集」全48曲を暗譜していたらしい。きっと遠いハンブルグ時代、マルクセン先生のレッスンの頃、寝ても覚めてもバッハだったのだろう。
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コメント
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<通りすがり様
おおお。穴があったらはいりたい。
全く気付かずに今日までとは、お恥ずかしい。
ご指摘感謝申し上げます。
投稿: アルトのパパ | 2007年12月11日 (火) 12時53分
初めまして。
記事を拝読しました。
ちょっと気になったのでコメントをつけさせてください。
「平均率」と書かれていますが、「平均律」ではないでしょうか? 調律ですから。
投稿: 通りすがり | 2007年12月11日 (火) 11時33分