影響と先取り
別作曲家による2つの音楽作品AとBがあったとする。AはBに先立って作曲されたがAB両者には明らかな作風上の共通点がある。
上記のような事実を前にして現代の音楽書は下記のような表現を用いる。
- AはBに影響を与えた。
- BはAの影響を受けている。
- AはBを先取りしている。
上記の例からも解るとおり、「影響」と「先取り」は同一の事実に対する別の表現である可能性がついて回る。「影響」や「先取り」の定義を明確にしないまま、解説やアナリーゼと称する文章に頻繁に現れるが注意が必要だ。
同じ事実に対して、文章表現が複数あることはよくあることだ。むしろそれがライターの腕の見せ所である場合も多い。誰を主語に据えるかによって微妙に使い分けられているのだ。
ブラームスはバッハやベートーヴェンから影響を受けた。しかしその逆はない。因果律に反する。かといって「バッハやベートーヴェンがブラームスを先取りした」という言い回しも見かけない。
一方で新ウイーン楽派はブラームスから影響を受けた。無論その逆はないのだが、「ブラームスが新ウイーン楽派を先取りした」という言い方にはしばしばお目にかかる。
無意識あるいは故意かは別として「影響」と「先取り」の使い分けには、書き手側のある種の意識が反映すると感じている。
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