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2008年1月21日 (月)

先取り

後世主流になる傾向を世間に先んじて取り入れていること。総じて良いニュアンスの論評の中で用いられる。

ブラームスの作品についての論評の中でもしばしば用いられる。「一般に保守的なイメージの強いブラームスだが、イメージに反して進歩的な作曲の手法も使っていたのですよ」という文脈の中で現れる。たとえば「後期のピアノ小品群で用いられている和声法は、20世紀の新ウイーン楽派を先取りしている」という具合である。

「先取り」という言葉を使っている側に他意も悪意もないのだとは思うが、疑問無しとしない。ブラームス本人にはそのような意図など無かったと思う。自分がこの世を去った後も自作が愛されるように祈ったことは確実ながら、後世の音楽の傾向なんぞ予知する意図などなかったと思う。「先取り」という言葉には、何やらある種の意思、ある種のベクトルが感じられるのだが、そんな意思はブラームスには無かったと思う。

その証拠に「ベートーヴェンやバッハがブラームスを先取りしていた」という論評にはお目にかかったことがない。もっぱら、「ブラームスがベートーヴェンやバッハから影響を受けた」という表現ばかりだ。ベートーヴェンの意図であることなんぞハナから想定に入っていない。ベートーヴェンやバッハに比べてブラームスが低く見られているような気がする。この論調で言うなら、「新ウイーン楽派がブラームスから影響を受けた」という表現でなければなるまい。

「先取り」という表現にはある種の賞賛が込められているのだとは思うが、私にとって読む際には少々身構えが要る言葉の一つになっている。

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