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2008年2月16日 (土)

天国に持って行きたい

自作を聴いた聴衆から「天国に持って行きたい」と言われたら作曲家は相当嬉しいと思う。そう言ったのが、親しい女性だったら尚更である。

実際にクララは、こういってブラームスのヴァイオリンソナタ第1番op78を誉めた。特に第3楽章がこの言い回しの対象だったと伝えられている。ブラームスの喜びはいかほどだっただろう。どうもこの作品は女性たちの感性に深く訴えるようだ。才色兼備のリーズルことエリザベート・フォン・ヘルツォーゲンベルグもその一人だ。あろうことか彼女はヴァイオリンソナタ第1番を自分に献呈して欲しいとねだったのだ。ところが親密度ではクララと並ぶ彼女のおねだりだが、実現していない。op78は誰にも献呈されていないのだ。代わりにop78次の番号op79の「2つのラプソディ」がリーズルに献じられた。この2つの作品は同じ年の夏にペルチャッハで完成を見た。このことはとても重要だ。op78は絶対に献呈出来ないという事情の裏返しと見える。代わりにop79を差し出したことは明白である。代わりに差し出したのが「ラプソディ」ならリーズルも満足だろう。

ちなみに「ブラームスの辞書」op78の持ち主は我が家の次女になっている。光栄だ。

ヴァイオリンソナタ第1番op78がリーズルのおねだりにもかかわらず、誰にも献じられていないのは、深い訳がある。クララから「天国に持って行きたい」と言って誉められた作品を別の人に献ずるハズがないのだ。そしてさらに決定的な要因がある。

クララの最後の子供フェリクスは、元来病弱だった。1878年、フェリクスの名付け親でもあったブラームスは病に伏せっていたフェリクスを見舞う手紙をクララにしたためる。ヴァイオリンをたしなんだというフェリクスにちなんで、ヴァイオリンソナタ第1番の第2楽章の冒頭部分の楽譜を24小節にわたって引用した手紙でクララを慰めたのだ。

薬石効無く、明くる1879年2月16日つまり129年前の今日フェリクスはこの世を去る。ヴァイオリンソナタ第1番の完成はその年の秋である。その第2楽章を聴いたクララは、ただちにそれがフェリクスへの見舞いの旋律だと察したに違いない。そして「雨の日には幼い頃を思い出す」という趣旨のテキストをもつ歌曲「雨の歌」の旋律で始まる第3楽章中で、この旋律が回想されるのを聴くに及んで「天国に持って行きたい」と称した。これには「持って行ってフェリクスに聴かせたい」という意味があったに決まっているではないか。当然ブラームスもその意図を察知する。いやそれが察知出来ないような男だったら、こんな曲は書けまい。この曲がリーズルに献じられたらクララをどれほど傷つけるか私でさえ想像出来る。

だから、間違ってもこのソナタを誰かに献呈出来るハズがないのだ。それがリーズルであってもである。

フェリクスの調

名付け親

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コメント

<yoshimi様

いらっしゃいませ。

1年以上前の記事を掘り当てていただきありがとうございます。あのあたりは「フェリクスネタ」を集中して公開しました。

2月15日の記事「名付け親」2月22日の記事「フェリクスの調」あたりも合わせてご覧下さい。

いつも散らかっていますが、今後も「ブラームスの辞書」をよろしくお願いいたします。

はじめまして。以前から時々立ち寄っているのですが、話題も切り口も新鮮で幅広い記事で、楽しく読ませていただいています。

私もブラームスの音楽が大好きですが、この「雨の歌」のヴァイオリン・ソナタはあまり聴いていなかったのです。
最近スーク&カッチェンの録音を入手したので久しぶりに聴くと、なんて良い曲なんだろうと再発見してしまいました。

第2楽章にブラームスが託した気持ちや、第3楽章の「雨の歌」の歌詞とクララの気持ちがオーバーラップしていることなど、CDのブックレット等の解説には書かれていないので、とても勉強になりました。
この曲にこめられたいろいろな感情を感じながら聴くと、知らずに聴いていた頃よりも、ずっと味わいの深い曲に聴こえてきます。

<ムームー様

ブラームスが愛した避暑地の数々、一度は訪れてみたいものです。

1番と2番、シャープとフラットが2個ずつというのもブラームスらしいバランスの取り方だと感じます。ラプソディのどっちが好きかは、きっと意見が拮抗すると思います。同じ人間でも時期によって変わるでしょうし。


<もこ様

おおお。そうでしたか。

クララやリーズルに加えて、もこ様もですか!
やはり女性の心を深く捉える曲ですね。

お久しぶりです。
ヴァイオリンソナタ第1番op78は、
私にとって、とても思い出深い曲です。
心にそっとしまって天国に持って行く。。そんな思いの曲です。

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