BWV797
「インヴェンション」と「シンフォニア」は「平均律クラヴィーア曲集」と並びバッハの教育的作品の根幹を形成する。
ブラームスがピアノを教える際の教材に「平均律クラヴィーア曲集」を用いていた話は既に書いた。同じ教育的作品であるインヴェンションやシンフォニアも教材にしていたのだろうとは思っていたが、このほどその証拠を見つけた。音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第一巻のフローレンス・メイの文章の中である。
本日のお題「BWV797」を背負ったト短調のシンフォニアの冒頭から数えて3小節目と4小節目の小節冒頭に発生する不協和音についてのブラームスの見解が証言されている。
本作を形作る3声のうちの最上声が、作品冒頭から1小節毎に「G-F-Es-D」と順次下降して来る。問題の3小節目冒頭は「Es」、4小節目冒頭は「D」である。これらの音が中声部によって直前の小節からタイで引き延ばされた「D」や「C」と衝突するのだ。それら小節の冒頭における衝突は、当該小節の末尾でその都度解決する。
小節の冒頭から「衝突→解決」の連続になる。その流れを意識して打鍵せよというのが、ブラームスの見解だと証言されている。
実際に聴いてみる。チェンバロやピアノによる演奏では、あまり衝突という感じがしない。もっと過激な和音に慣れてしまっているせいかと思っていたら、先般入手した室内楽版だとくっきりと聞こえる。衝突と解決という概念が弦楽器の特性のおかげでより具体的に実感できる感じだ。ピアノを弾きながらこうした和音進行の聴かせ所に注意を喚起するとは、何だかしみじみありがたい。
おそらくこれはほんの一例だ。ブラームスのレッスンはきっとこの手の指摘に溢れていたのだろう。
娘たちと3声のシンフォニアに取り組むとしたら、真っ先にこのBWV797を選びたい。3小節目と4小節目の冒頭の衝突は、上2声を担当する娘たち2人のパート間で起きるはずだ。そのときに私が、ブラームスに成り代わって講釈をたれるのだ。
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<魔女見習い様
恐れ入ります。
言っているのは私ではなくて、ブラームスだということが何よりも大切です。
投稿: アルトのパパ | 2008年3月12日 (水) 21時15分
なるほど~
勉強になりました。
どうもありがとうございます!
投稿: 魔女見習い | 2008年3月12日 (水) 21時09分