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2008年3月16日 (日)

カノン

何と言っても代名詞はパッヘルベルだ。

同じ旋律が異なるタイミングで開始される曲とでも申し上げればいいのだろうか。音の高さが同じでないこともある。先のパッヘルベルや「カエルの歌」などは音の高さまで同じである。小学校の頃に輪唱という言い回しを習った。バッハの「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」ニ短調の第2楽章の独奏ヴァイオリンとオーボエがカノンになっている。他に有名なところではフランクのヴァイオリンソナタの終楽章だ。

バッハの時代に隆盛を極めるが、ホモフォニーに押されて下火となるも、曲の一部としてカノンの手法が採用されることも少なくない。

さてブラームスにもカノンがある。よく目立つところでは下記の通り。

  1. 宗教的な歌曲op30 9度の音程差で追いかける「9度のカノン」しかも2つの旋律がからむ2重カノンだが、屁理屈は邪魔なだけの美しさだ。
  2. 女声合唱のための13のカノン op113
  3. ミサカノニカ WoO17およびWoO18。

実は、1曲丸々カノンの作品よりも、曲の一部にカノンの手法が取り入れられているケースの方が多い。

  1. 「愛の誠」op3-1 冒頭からいきなりのカノン。ピアノの左手が歌のパートに1拍だけ先行するカノンになっている。
  2. チェロソナタ第1番第1楽章第2主題57小節目。チェロのパートをピアノの右手が1拍遅れて追いかける。
  3. ピアノ四重奏曲第3番第1楽章の177小節目。先行するヴィオラを追うヴァイオリンは、3拍、2拍、1拍と差を詰める緊迫のカノンだ。いわゆる「Tail to nose」である。
  4. 交響曲第4番第1楽章冒頭。ヴァイオリンの主旋律に2拍遅れて弱拍に和音を差し挟む木管楽器をカノンと申しては行儀が悪いだろうか。
  5. 「4つの厳粛な歌」の3番目「死よ何と苦しいことか」op121-3の6小節目。葬列が粛々と歩みを始める場所。ピアノが歌のパートに4分音符2個分先行するカノンになっている。ダイナミクスはとっておき感溢れる「mp」だ。

注目すべきは上記の1と5だ。リート作曲家ブラームスはキャリアの最初の歌曲をカノンで始め、最後もカノンで締めくくっていることになる。リートにおけるピアノを声と対等の位置まで引き上げる試みを始めたのはシューベルトだという。その正当な後継者たる自覚に溢れたブラームスが示した回答の一つがこれだ。ピアノと声がカノンの声部を形成するとは、これ以上ない対等振りではないか。

なかなか出来ることではない。

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