交換法則
中学校の数学で習う。足し算またはかけ算の場合、順番を入れ替えても答えは同じになるという法則だ。「4かける3」と「3かける4」どちらも答えは12になる。これを学問めかしていうと交換法則という訳である。
ブラームスの作品の中に「4×3=3×4」を実感させてくれる箇所がある。
本日ばかりは譜例がないと厳しいといいつつ強行突破である。
ピアノソナタ第2番の楽譜があれば開いて欲しい。4分の3拍子の第1楽章だ。定義によれば4分の3拍子は、つまり1小節に4分音符が3個だから、16分音符ならば4×3で12個だ。4分の3拍子と言われれば誰しも「16分音符ならば12個」とたちまち暗算が可能である。ブラームスとて例外ではない。問題のピアノソナタ第2番第1楽章においてブラームスは16分音符が12個という事実を切り口に交換法則を証明する。
冒頭部フォルテシモで16分音符の和音が打ち鳴らされた後16分音符2個分の休みの後、「A-H-Cis」と「Fis-Gis-A」という具合に音階にそって3段階上行する音型が強調される。ここでは16分音符3つでグルーピングされている。楽譜を見ずに演奏だけを聴くと16分音符が3個一組のフレーズに聞こえる。この音階状に上行する3音のモチーフは第1楽章の冒頭付近で微妙に音価を変えながら執拗に繰り返される他、第2と第3の両楽章の冒頭でも出現し、このソナタ全体を括るモチーフの役割をになっている。だから16分音符3個一組に聞こえることは必然でさえある。つまり「3×4」の表明だ。
でありながら、一方でブラームスは3拍目の四分音符にアクセントを付与している。このアクセントは明らかに「4×3」に由来する痕跡である。「12個の16分音符」を軸足に「4×3」と「3×4」の境界付近で行きつ戻りつを楽しんでいる。3小節目から4小節間は「4×3」に戻っているものの、7小節目から怪しくなり9小節目でまたどっちつかずとなる。
演奏者のリズム感に挑戦するかのようであるが、その意図は明確だ。上行する3連音の強調に他なるまい。
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