ブラームスの碓氷峠
碓氷峠は鉄道マニアにはおなじみだ。旧国鉄の鉄道路線の中で最高の急勾配があった場所だ。群馬県の横川と、長野県の軽井沢の間にあり、古くは中山道最大の難所であった。明治になって鉄道が敷かれても、最大斜度「1000分の67」を擁する「最大の難所」であり続けた。1000メートル進むと67メートル上がるという意味である。これが最高の急勾配といわれる根拠である。
話はブラームスに戻る。ブラームスの作品に現れる「crescendo」で「最大の急勾配はどこか」が本日のお題である。
先に急勾配の概念を整理しておこう。
- 「crescendo」の始まる場所のダイナミクスと、到達点のダイナミクスの差が大きい。
- 「crescendo」始まりから終わりまでに要する所要時間が短い。ただし演奏者によって容易に変動が起きるので、簡単に特定しにくい。
- 上記2の要素を補完する概念として「crescendo」の始まりから終わりまでに要する小節数が短いことを想定する。
- もちろん楽譜上に「crescendo」が明記されている場所に限る。
- 瞬間的にダイナミクスを引き上げる「subito~」は対象外とする。
さて、上記の5つの定義に従ってブラームス最大の急勾配を探すのだが、一つ工夫がある。「crescendo」とだけ書いてある場所は実は全部対象外なのだ。ブラームスは「molto crescendo」を19箇所と「crescendo molto」を20箇所用いているので、今回のお題「ブラームス最大の急勾配」はこの39箇所の中に求められるべきなのだ。
結論から申し上げる。第1交響曲第4楽章の18小節目だ。始まりのダイナミクスは「p」で、2小節をかけて「ff」に駆け上がっている。ここには「crescendo molto」と書いてある。
「crescendo molto」の倒置形「molto crescendo」にも候補地が下記の通り3つある。いずれも「p」から2小節でffに駆け上がっている。
- ピアノ協奏曲第1番第1楽章108小節目の独奏ピアノ
- ピアノ四重奏曲第3番第1楽章306小節目
- 交響曲第1番第1楽章432小節目
用例を分析すると「crescendo molto」より「molto crescendo」の方が勾配が急な傾向があることも事実だ。上記の1と2の始まりのダイナミクスは記載上「p」だが、実際には「molto crescendo」の前に「crescendo」が挿入されているので、実質的には「p」以上のダイナミクスからのスタートになっているので脱落だ。残る2者は偶然にも第1交響曲になった。この先は人間の感覚に頼ることになる。参加している楽器の数、テンポを勘案して、先に述べた第1交響曲第4楽章18小節目を最大の急勾配と認定した。ここにはトップ系指定として「Stringendo molto」が鎮座してテンポを急激に煽っていることが選考の決め手となった。
おバカなタイトルをつけてしまったので、落としどころが難しくなってしまった。
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