なんたる演奏
ブラームスのピアノの腕前は微妙な位置にある。10代前半から公の場で演奏し高い評価を得ていたことは知られているが、しからばピアノ演奏のヴィルトゥオーソかというとうなずき難いという。演奏に関してはリストやショパンあるいはクララに並ぶ才能とまでは言えなかったらしい。レパートリーも壮年期以降はもっぱら自作の演奏に限られていたという。
ピアノ協奏曲第2番でブラームス自身がピアノ独奏をした演奏を聴いたチャールズ・スタンフォードの証言がある。音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第3巻177ページだ。
「両手にあまるミスタッチの山」「タッチが固くコントロールが出来ない」「遅い楽章では ビロードの肌触りだがその他は疑問」
こんな演奏だったのだ。コンクールだったら本選にさえ進めないだろうし、新聞の演奏評に書かれてしまっては致命的でさえある。
しかし筆者の主眼はそこにはない。「威容と解釈においてこんな演奏は聴いたことがない」と続くのだ。「どうせ楽譜には正しい音が書いてあるのだから、間違えた音を弾くことなど些細なこと」「音の間違いなど弾き手も聴き手も気にしていない」
これがブラームスの故郷ハンブルグでの演奏会だったことを差し引いても異例である。筆者を含む聴衆が皆、作曲者自らの演奏という状況に酔っていたのかもしれない。
ああ聴いてみたい。
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