美しいハーモニー
世の中広い。海の向こうには凄いマニアがいると以前に書いた。
「ブラームス性格作品 演奏の手引き」(全音楽譜出版社)という本の著者トマス・シューマッカーという人だ。ジュリアード音楽院を出たピアニストで教育者でもあるらしい。
その本の104ページ中ほど。ブラームスのインテルメッツォホ長調op116-4の章の中に「これほど美しいハーモニーがついた長音階がどこにあるでしょうか」という記述がある。37小節目以下を指している。いわゆる中間部だ。
この本ブラームスのピアノ小品の演奏法について専門家の立場から現実的な提案がてんこ盛りになっている。体裁としてもノリとしても「技術指導書」なのだが、おそらく意図的に作者の感情が勝った表現が随所に見られ、それが良いスパイスになっている。根底にあるのは、「私はブラームスが好きだ」という点に尽きる。技術専門書の中に「これほど美しいハーモニーがついた長音階がどこにあるでしょうか」のような記述が平然と挿入されることが全く不自然でないのは、ひとえに著者の熱意のせいだと思われる。
その箇所を聴けば彼の言っていることがすぐに納得出来る。実際に可憐な景色である。
ブラームスを好きであることと、好きを音に転換するスキルを持ち合わせるとこういう人になれるのだ。おまけに本を書く才能まで併せ持っている。私に言わせればむしろそれらのハーモニーこそが美しい。羨ましい限りである。
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