瞬間型マルカート
マルカートは「marcato」と綴られて「はっきりと」と解される。疑問を差し挟む余地はない。
マルカートに限らず音楽用語は一般に効き目が持続する。効き目が終わる場所に標識がある場合と無い場合に分かれるが、効き目の持続はお約束でさえあるのだ。
本日話題の「marcato」も同様だ。記された場所からしばらく効き目が持続する。効き目の終わりが明記されないタイプなので、どこまでマルカートにするかは、演奏者のセンスに委ねられることになる。「はっきりと」弾かれることを期待されるが、ただちにダイナミクスの増大を意味する訳ではない。ブラームスにおいては「p marcato」や「pp marcato」が少なからず出現することからも明らかである。
さてさて、もしもブラームスが音符1個をはっきりと演奏させたいと思った場合、用語としては何を使うのだろう。持続型の「marcato」では使い勝手が悪い。効き目の終わりを表す用語が存在しないから、marcatoからしばらくは自動的に「はっきりと」弾かれてしまう。
この問いに対してブラームスが用意したと思われる用語がある。
「rf」(リンフォルツァンド)がそれである。大抵の音楽用語事典には「rf」と「sf」の区別が書かれていない。どちらも「その音を特に強く」と説明している。しかしブラームスは明らかに書き分けている。「ブラームスの辞書」は「rf」の全用例から「sf」よりは、お宝度、とっておき度、繊細度が高いと断じている。
本日はさらにこれを深めて「rf」の機能として「瞬間型マルカート」を提案する次第である。ブラームスの作品においてということは譲れぬ前提だが、定義は簡単だ。「marcato」と全く同じ概念の瞬間型だ。周囲の中で抜きんでて大切な音に対するマーカーとでも言い換えられよう。ただちにダイナミクスの増強を意味しないことも「marcato」と同様だ。
「rf」の解釈に詰まった際の、打開策の一つとして提案する次第である。
「sf」と同じと説明されるより、数段収まりが良い。
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