senza ritardando
「リタルダンドなしで」と解される。「senza」は「con」の反対語だ。英語でいうところの「without」に相当する。
楽想から判断して放置すると遅くされかねない場所、しかもそれでいて遅くされては困る場所に「なりませぬ」とばかりに鎮座している。ブラームスは生涯で一箇所この語句を用いている。
「8つのピアノ小品」op76の中の2番ロ短調のカプリチオの81小節目に「diminuendo (senza rit.)」として出現する。まるで潮が引くようなディミヌエンドを、テンポを落とすことなく実現せねばならない。2小節後に始まる主題再帰の準備の一環である。まったくテンポを落とさずに主題を再現させる意図が込められていると考えたい。放置するとテンポが落とされかねないと危惧していたと思われる。
「diminuendo」にテンポダウンの機能があった証拠となりかねないが、その観点からは、「senza rit」を囲むカッコが重要である。ブラームスはやはり、「diminuendo」にテンポダウンの機能を認めていないと思う。「diminuendoにはテンポダウンの機能はないけれど、念のため」というニュアンスがこのカッコから透けて見える。
一方でこのカッコが「自筆譜には無いけど」の意味だったら少しがっかりだ。出来れば自筆譜で確かめたいものだ。
もし自筆譜にもあるならここでテンポを維持することは、それほど重要だということだ。
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