C-H-C
有機物の授業ではない。水素から2本の腕が出ることはあり得ない。
「C-H-C」のように半音下の音に移ってすぐに元の音に戻るパターンのことを個人的に「ブラームスターン」と呼ぶことにしている。数ある音型の中でもこのパターンに特に名前をつけたくなる何かを感じている。ブラームス節の根幹をなすとも思えているのだ。「ブラームスの辞書」でもこのパターンの全てを列挙出来ている訳ではない。偶然も含めればかなりな数になるだろう。
器楽曲での偶然でない初期の例にop18の「弦楽六重奏曲第1番」がある。第一楽章冒頭の第一チェロに「B-A-B」が現れる。きっちりとフィナーレ冒頭にも現われて偶然でないということをアピールしてくれている。シェーンベルグが管弦楽に編曲したことで名高いピアノ四重奏曲第1番の第3楽章冒頭には「Es-D-Es」として登場する。ブラームス屈指の名旋律だ。
記事冒頭に例示した「C-H-C」は、第1交響曲終楽章の主要モチーフになっている。移動ドで読むと「ソドシド」だ。歓喜の歌との関連が取り沙汰されるあの主題にはっきりと投影され、楽章を通じて重要な役割を担っている。実はこの音形は、ブラームスがウイーンジンクアカデミー指揮者デビューの演奏会で取り上げた、バッハのカンタータ第21番の第2曲「我が心は憂い多かりき」の冒頭と似ている。もっと身近な話をするならハ長調のインヴェンションの冒頭の8分音符は「ソドシド」になっている。
このパターンがよほどお気に召したのだろう。続く第2交響曲の冒頭では「D-Cis-D-A」が、いきなりチェロで提示される。移動ドで読めば「ドシドソ」になる。第1交響曲のパターンを逆さにしたことになる。さらにこのモチーフは作品全体を貫く細胞になっていて第4楽章の冒頭でも聴くことが出来る。昔の人はうまいことを言ったものだ。2度あることは3度あるのだ。第3交響曲では、フィナーレ第4楽章が「C-H-C」と「Des-C-Des」の連続で立ち上げられている。こうなると第4交響曲に無かったら不自然だと思えてくる。ブラームスがフルートに与えた最高の栄誉、第4交響曲第4楽章97小節目から始まる第13変奏のフルートソロの冒頭に「E-Dis-E」が現れる他、これに続く第14変奏冒頭でもヴィオラが「E-Dis-E」がを放つ。
交響曲の第4楽章には、「C-H-C」の音型が4曲全てに埋め込まれているということになる。私がこの音型に「ブラームスターン」と名付けたくなる理由が、少しは伝わるだろうか。
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<魔女見習い様
おおお。これはこれは心強い。
無謀を承知の突撃でしたが。。。。
投稿: アルトのパパ | 2008年6月 4日 (水) 21時11分
この音型に「ブラームスターン」と名付けたくなる理由が、
よくわかりました。
投稿: 魔女見習い | 2008年6月 4日 (水) 21時03分