弱者の戦略
今夜遅く、正確には明日未明サッカー欧州選手権が開幕する。いわゆるユーロ2008だ。
サッカーが世界中の人から愛される理由の一つに番狂わせがある。サッカーチームの強い弱いには厳然とした格差があって、それはしばしば「格上」「格下」という言葉に表れる。いやむしろ完全に互角の戦いの方が例外とさえ思える。
とりわけ格下と目されるチームが格上の相手を負かしたり引き分けたりの中にドラマが隠れていることが多い。アトランタオリンピックのグループリーグで日本がブラジルに勝ったことを思い出すといい。格下のチームは何とかして番狂わせを起こそうと知恵を絞る。90分間10人で守って引き分け狙いというのも立派な戦略だ。
格上だからといって試合前にあきらめるチームはない。
私が「ブラームスの辞書」を書く決意をした時、マッコークルの「ブラームス作品目録」を買った。世界最高のブラームス本だと思う。どんなに凄いかは2005年6月12日の記事「マッコークル」や5月27日の記事「マッコークルの守備範囲」を参照いただきたいが、一言で申せば圧倒的な格上だ。
実際に手許に届いた時の衝撃は大きかった。もしこの本が日本語で書かれていたら私は「ブラームスの辞書」の執筆を諦めていたかもしれない。つまりドイツ語で書かれているがために、その凄さが十分伝わっていないということなのだ。さらに全作品を網羅した譜例が楽曲冒頭にとどまっていたことにかすかな光明を感じだ。
マッコークルの譜例が楽曲冒頭に限ることと、記述がドイツ語であることをかすかな希望として、執筆を決意したのだ。私は全作品の全小節を舐めるように拾うのだという一点がこちらの勝機である。あくまでもあくまでも作品という切り口に特化しているマッコークルに対して私は「音楽用語」を切り口に据えるという戦術を考えたのだ。つまりマッコークルは「f」や「p」の数を数えてはいないのだ。
サッカーの天皇杯でときどき実現する高校生がJリーグ1部のチームに挑戦するようなものだが、格上マッコークルに負けたくないと考えていたということである。
守って守って守って0対0の引き分け狙い。運が良ければPK戦で勝ちたいと思っていた。
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