最後のpoco f espressivo
7月3日の記事「打ち出の小槌」で「poco f espressivo」について言及した。
32の用例の最後が第4交響曲第2楽章88小節目であると書いた。誤解覚悟で断言すると、この場所が私にとって第4交響曲中最高の瞬間であると申し上げていい。
この主題が2度目に提示される場所だ。一度目ではチェロに旋律が任される。第1ヴァイオリンはそれを細やかに刺繍する。美しくはあるが主役ではない。2度目は弦楽器の響きの厚みがことさら強調されている。第1ヴァイオリンが旋律を担当し弦楽器各パートはディヴィジョンによって細分化され、声部間の鬱蒼とした絡み合いを聴かせる意図は明らかだ。
まさにこの場所に「poco f espressivo」が鎮座する。下手な日本語訳は邪魔なだけだ。
こここそブラームスが楽譜上に記した最後の「poco f espressivo」なのだ。あと12年の創作生活が残っていたのだが、ブラームスはこの打ち出の小槌に封印をした。「poco f」の使用はこの後も観察出来るから「espressivo」との並存だけを忌避したと解さざるを得ない。
「打ち出の小槌」の放棄にしては呆気なさ過ぎる。絶頂期に惜しまれつつ引退するかのようだ。
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