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2008年10月 8日 (水)

刻み

「後打ち」「アルペジオ」と並ぶ伴奏音形の典型。一定の律動を伴っていても、音が乱高下するような場合は「刻み」とは言わない気がする。正確な定義は大変難しいから、実例を列挙することでお茶を濁す。

何と申しても第一交響曲の冒頭、大地のような低い「C」音の拍動が有名だ。聴かせどころではあるが、フォルテシモではないことに意義があると思っている。ベートーヴェンやモーツアルトに特有のアレグロの疾走感を規定する刻みとは程遠い。

一方作品の冒頭に低いところで延々と主音が刻まれるという意味では、ドイツレクイエムも同類である。スラーで数珠繋ぎになった「F」音が「p」で延々と続く。両極端のダイナミクスではあるが、何だか地の底で第一交響曲と繋がっているような気がする。

室内楽に目を移す。ピアノ四重奏曲第3番第1楽章にヴィオラの見せ場がある。142小節目だ。松ヤニの煙立ちこめんばかりの渾身の刻みである。しかも151小節目まで全ての瞬間が重音になっているばかりかシャープが5個も鎮座するので開放弦も使えない。テクニックの都合でよく重音の片側をはしょることの多い私だが、ここだけはそれをしてはいけない。一生懸命に弾くとご褒美がある。164小節目からまた同様の見せ場が訪れる。今度はシャープが1個になっている。重音を強いられることに変わりはないが、開放弦を使える分だけストレスは低い。この刻みを伴奏だと思って弾いたことなど一度もない宝物である。

それからヴァイオリン協奏曲の第1楽章にもある。353小節目、ここのヴィオラの三連符の刻みはカッコよさにおいて比類がない。独奏ヴァイオリンのシンコペーションの向こうを張る決然たる刻みだ。伴奏だと思って弾くのは罰当たりである。

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