後打ち
10月1日の記事「伴奏ルネサンス」の中で述べた「3大伴奏パターン」の一つ。拍頭に休符を据え、裏拍に音を出すことだ。1拍だけでは成り立ちにくい。複数拍継続することでより効果が鮮明となる。
ハンガリア舞曲のヴィオラパートに多い。「ブラームスの辞書」でもブラームス作品に出現する後打ちを全部数えるなどということは試みていない。罪滅ぼしに印象的な箇所をあげる。
まずは室内楽。ピアノ三重奏曲第1番第4楽章の64小節目。第二主題とともにチェロとピアノの左手に現われる。ここから87小節目まで何らかの形で後打ちされる。特に「f pesante」と記されたチェロのカッコ良さは並ではない。伴奏という言葉を寄せ付けぬ凄みがある。この第二主題は1854年の初版には全く現われない。
続いて交響曲。第4交響曲第2楽章41小節目からの第1ヴァイオリンだ。この場所いわゆる第2主題である。旋律はチェロだからこの第一ヴァイオリンは伴奏だなどという認識は罰当たりの対象でさえある。雄渾なチェロを縁取る繊細な刺繍である。特に42小節目の後半の後打ちは言葉になりにくい魅力がある。
最後に厳密な後打ちとは呼べない掟破りな場所を一つだけ。第2交響曲第3楽章22小節目だ。2小節前からシンコペーションを吹いているホルンは、一足先にフェルマータに流れ込んだ木管楽器とチェロに遅れてD音を差し込む。これが後打ちに聴こえるのだ。しかもこの場所が再現部になるころ、つまり218小節目ではヴィオラがホルンになり代わって受け持つことになる。
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