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2008年11月13日 (木)

調の名で呼ぶ習慣

音楽愛好家同士の会話や、音楽関連書物の中で頻繁にお目にかかる表現がある。特定の作品を指し示すときに調の名前を添付する言い回しのことだ。「ハ短調の交響曲」「ニ長調のコンチェルト」「Bdurのカルテット」という類の表現である。その時に使われるのは、決まって第1楽章冒頭の調の名前だ。

何故こうした言い回しが発生定着しているのだろう?何故決まって第1楽章冒頭の調なのだろう?

名前を付けるという行為は人類に特有の行為である。その機能は個体の識別と、存在の認識にあると思われる。製造や物流の品質管理においてよく用いられるの後者だ。製造工程といってもそれは、膨大な数のアクションの集合体だ。それを一山いくらののりで「製造工程」と総称しているのだが、品質管理をつきつめる際には、一個一個のアクションに名前を付けることから始まるという。名前を付けることで人々は個々のアクションを意識するようになるらしい。これがつまり存在の認識である。

音楽作品に名前を付けるという行為は多分に前者だということは明らかながら、後者も無視し得ないと思っている。話は「標題音楽」がもてはやされるずっと前にさかのぼる。作曲家は、貴族の求めに応じて次々と作曲した。同じ編成同じジャンルの作品が消耗品の如く生み出された。もちろん作曲順に並べて早い順に付番する「作品番号」の概念など存在しない。作品がたまたまいたく気に入られた場合でも、ただディヴェルティメントと言っただけでは、どれを指すのか判らなかったに違いない。仕方なく作品冒頭の調の名を付けて個体を識別したのが作品命名の起原ではないかと想像している。名前が付いてみると、好きだ嫌いだ、良い悪いの議論がより盛り上がることになる。存在の認識がより進むことになるという訳だ。

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