mit Laune
もちろんドイツ語だ。「mit」は英語でいうところの「with」に近い。「Laune」は「気まぐれ」と解される。「気まぐれに」というのが一般的な理解となる。これでもちろん罰点はない。
ブラームス晩年の歌曲「Slamander」op107-2冒頭に出現する。作品番号付きの作品ではここが唯一の出番だ。シンプルな8分音符の伴奏がさめざめとした寂寥感を添えている。音楽之友社刊行の「ブラームス歌曲対訳全集」第2巻の263ページの曲目解説にこの「mit Laune」についての言及がある。曰く「見せかけの陽気さで」とある。
独和辞典を引いても「Laune」単独で「陽気な」という意味は見当たらない。
そこで1861年レムケが発表したテキストの意味を吟味すれば一層味わいが深まる。「Salamander」は火の中に投じられても死なないという伝説上の動物だ。好きな女から火の中に投じられるかのような仕打ちを受けている男が、自嘲気味に歌うという内容なのだ。そもそもここで言うところの「気まぐれ」には愛する女性の仕打ちを暗示する意味があると思われる。歌の後半でイ長調に転じて明るさを増すことで、その自嘲的な意味合いはさらに増強される。一般に「恋の歌」が陽気であるなら、それは恋の成就なり喜びなりの描写になりそうなものだが、ここではその逆を行っている。
先の解釈「見せかけの陽気さで」というのはここいらの事情を加味した意訳だと思われる。何だか妙な説得力がある。
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