ホルンのエチュード
ブラームスはホルンのための練習曲を書いている。「トランペットまたはホルンのための12の練習曲」だ。もちろん作品番号は付与されていない。マッコークルでは「疑わしい作品」の中に収められている。推定作曲年代は1840年代末期だから、だいたい15歳から17歳までの作だ。一応ブラームスの自己申告によればホルンもそこそこ吹けたことになっているので辻褄的にはかろうじてつながっている。
広く知られている通り、ブラームスはピアノのための練習曲を書いている。こちらにも作品番号は無いけれど、れっきとしたブラームスの真作と認められている。ピアノは言うまでも無く、ブラームスの楽器である。創作の初期から晩年に至るまでピアノ作品は主要な位置を占めているばかりか、管弦楽や室内楽の彼自身によるピアノ曲への編曲は頻繁に見られる。何よりも彼自身が相当なピアノの腕前の持ち主だった。だから、ピアノの練習曲を書くことはとても自然でさえある。
ホルンやトランペットでは、とてもピアノまでの位置付けは望むべくもない。けれども特にホルンにおいては、この教則本をブラームス作曲に非ずとして一笑に付すには忍びない位置付けにある。
ホルン三重奏曲を取り出すまでも無い。管弦楽作品の中でホルンに与えられた役割は、しばしば全オーケストラに冠たる位置付けと断言し得る。だからブラームスならホルンのエチュードくらい書いているかもしれないと愛好家の好奇心をくすぐるのだ。この作品をブラームス作と主張する偽作者が存在するとしたら、そうした一点をおさえていると言う意味で巧妙といわねばなるまい。
ヴィオラのエチュードでも発見されないものか。
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