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2009年2月20日 (金)

お膳立て

下準備のことだ。大事の前の支度である。

ベートーヴェンは、「歓喜の歌」の提示にあたり入念にお膳立てをした。交響曲第9番ニ短調の話だ。何しろ先行する3つの楽章のテーマを小出しにしては、チェロのレチタティーボで律儀に一つ一つ否定するのだ。せっかく時間をかけ自ら積み上げてきた先行楽章を否定するのだから並大抵ではない。3つ否定してしまい万策尽きたところで、歓喜の歌の断片が出る。さっきまで否定していたチェロが今度は肯定する。やがて歓喜の歌が地の底からわき上がる。

しかしこれでもまだお膳立てが終わらない。バリトン独唱が「おお友よ、これらの調べではない」と歌いだす。恐らくこれが交響曲で用いれらた史上初の人の声だ。この部分はシラーのテキストではない。ベートーヴェンの自作だ。チェロのレチタティーヴォでまだ足りぬとばかりに飛び出すバリトンだ。

歓喜の歌に対するお膳立ての厚みは尋常ではないのだ。交響曲にはじめて人の声を導入するための大義名分を唱えているかのようだ。人の声を入れねばならぬ必然性の構築とも言い換えうる。

ブラームスにも歓喜の歌がある。ベートーヴェンとの類似を数え切れぬくらい指摘されてきた第1交響曲の終楽章の主題だ。ブラームスだって歓喜の歌を出すためにお膳立てをした。交響曲の終楽章に序奏を置くのはこの第1交響曲だけだ。全ソナタに範囲を広げてもピアノ五重奏曲とピアノソナタ第2番が加わるだけだ。ブラームスのお膳立てはと申せば、もっとパーソナルだ。クララ・シューマンの誕生祝いにと歌詞をつけて贈った旋律を持ってくる。第4楽章30小節目至宝「Piu Andante」だ。クララに贈った時には歌詞がついていたことがポイントだ。ここ第1交響曲の急所に転用するにあたっては、歌詞が抜き取られている。全能のホルンに割り当てて、満を持したトロンボーンの世界遺産級コラールを続けるだけで十分と考えた。

ベートーヴェンのお膳立ては「交響曲に人の声を入れるため」であるのに対して、ブラームスのお膳立ては「交響曲から人の声を抜くため」のお膳立てだ。だからこそ、このフィナーレ第4楽章の主題は、凡庸な耳にもベートーヴェンとの類似を感じさせる必要があったのだ。周囲からそれを指摘されたブラームスのぶっきらぼうな反応はきっとそのためだ。

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コメント

<魔女見習い様

はい。昨日の記事の続きです。

うん。はい。おぉ!

>周囲からそれを指摘されたブラームスの
>ぶっきらぼうな反応はきっとそのためだ。

きっとそうですね。

この記事は前日の「論争の原点」と繋がっているような?

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