社交の小道具
今ほどタバコに対する世の中の逆風が強くなかった時代。タバコは紳士の社交の道具だった。紳士どうしの初対面の場で、名刺交換代わりにタバコを薦めあうのだ。
2005年に中国に出張した際にも感じた。名刺交換が終わると本論に入る前に「まあまあ」とばかりにタバコを薦めあうのだ。普段は吸わないのにこの風習のためにタバコを持ち歩いているという人もいるという。この場面で品質の良い日本産のタバコを薦めるとことでその場の雰囲気が格段に良くなった経験が一度や二度ではない。
音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」全3巻にもタバコに関する逸話がたびたび現れる。中でも愉快なのが英国の指揮者のチャールズ・スタンフォードだ。ブラームスとの初対面の回想シーンである。ブラームスのきつい皮肉を、タバコにひっかけたジョーク一発で鮮やかに切り抜ける。2人は腹を抱えての大爆笑となり、この一件で完全に打ち解けることが出来たという。
ブラームス唯一の弟子イエンナーは、初対面で薦められた上等の葉巻は、その後ついぞ口にすることが出来なかったと嘆く。
1862年ウィーンに進出したブラームスだが、翌年の秋にジンクアカデミーの指揮者に就任するまでは無職だった。その間なかば居候状態だったのがリストの弟子タウジヒの家だ。ブラームスが本格的に葉巻を吸ったのはおそらくこの頃だと思われる。
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