かする
物と物が衝突する場合、「ぶつかる」と表現される。ぶつかった結果、当事者が壊れることもある。これに対して本日のお題「かする」は、接触はあるものの、両者はさしたるダメージを受けないというニュアンスだ。日本語は難しくかつ繊細だ。これが「かすめる」となると両者は接触しないというイメージになる。ごく近くを通過しながら接触は無かったという感じだ。
転じて旋律や和声の動きを言葉で表す試みの中で「ぶつかる」「かする」「かすめる」が、しばしば用いられる。
半音関係の音は「ぶつかる」と形容される。
ブラームスの作品を論じる際「かする」「かすめる」は旋律の流れや和声の移ろいを表現する時に重用されている。長調の旋律の中で一瞬短調が仄めかされた場合「かする」「かすめる」と形容される。あるいはその逆、短調の中に一瞬差し込む長調の光の形容だ。
弦楽六重奏曲第1番第1楽章17小節目のDにフラットが忍びよるとき、あるいはピアノ四重奏曲第3番第3楽章冒頭小節の3拍目のCisに寄り添うナチュラルだ。第1交響曲第2楽章の2小節目ホルンのGにも心動かされる。
無論こうした「かする」「かすめる」の実例を「ブラームスの辞書」でも拾いきれてはいない。いくらでも思いつくのだからきりがない。
何よりも大切なのは、こうした場所は大抵ブラームス節の急所になっているということだ。
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