歌姫
歌の上手い女性という程のぬるい定義でお茶を濁す。
優れた演奏家が作曲家の創作意欲を刺激してきたことは、音楽史をひもとけばただちに見当がつく。ブラームスも例外ではない。器楽の分野ではピアノのクララ・シューマン、ヴァイオリンのヨアヒム、クラリネットのミュールフェルトなどがその代表だ。
声楽の分野にもいた。とりわけ優れた女性歌手がプロ、アマを問わず入れ替わり立ち替わりブラームスの周辺に現れた。そして時々それは恋の予感とセットだった。
- アガーテ・フォン・ジーボルト ご存知、元婚約者だ。初期のいくつかの歌曲に彼女が霊感を運んできたことが確実視されている。ヨアヒムも絶賛の実力者。
- ベルタ・ポルプスキー ハンブルク女声合唱団の有力なメンバーの一人。彼女の出産祝いに贈られたのが「ブラームスの子守歌」だ。
- ルイーゼ・ドゥストマン ウィーン宮廷歌劇場の歌手。熱心にウィーン進出を勧めた。
- アマーリエ・ヴァイス 優れた歌手。後のヨアヒム夫人だ。ブラームス好みのコントラルトで、いくつかの作品にインスピレーションを与えたようだ。
- オティーリエ・ハウアー 誰かがクリスマスに彼女をさらって行かなかったら自分がバカなことをしていたかもしれないと回想する魅惑の人。結婚の可能性で申せばかなりのレベルだったと思われる。
- ヘルミーネ・シュピース 50代のブラームスと結婚の噂まであったソプラノ歌手。op105あたりに霊感を与えたらしい。
- マリア・フェリンガー ジーメンス社ハプスブルク支社長夫人。アマチュアだが、相当な実力の歌手。夫の伴奏でブラームス作品を歌いまくったという。
- アリーチェ・バルビ 結婚の噂にこそならなかったがメロメロのブラームスだ。彼女と過ごすために夏のイシュル行きを延期するなど、朝飯前だ。結婚を機に引退する彼女の告別演奏会で、突発的に伴奏を引き受けサプライズを自演するほどの入れ込みだ。
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