ダブルブッキング
「二重予約」と解される。たとえば列車の座席やホテルの客室の予約業務の現場で発生することがある。もちろん顧客からの信用に関わる。稼動率を上げるため一定数のキャンセルを見込んで多目の予約を受けてしまうオーバーブッキングと表裏一体の関係にあるとも言われている。
ロベルト・シューマンの妻クララは作曲家でもあった。作品番号のついた作品が22ある。このうち作品番号21を背負っているのは「3つのロマンス」というピアノ独奏曲である。作曲日とともに列記する。
- 1番イ短調 Andante 1853.6.8
- 2番ヘ長調 Allegretto 1853.6.25
- 3番ト短調 Agitato 1853.6.27
これら「3つのロマンス」全体としてはブラームスに献呈されている。ところが全体がブラームスに献呈される以前にイ短調の第1番が単独で夫のロベルトに献呈されているのだ。つまり全体はブラームスに、部分的にはシューマンに献呈されていることになる。「献呈のダブルブッキング」だ。恐らくブラームスの蔵書だったウイーン楽友協会所蔵の1番の楽譜には1855年4月2日と書かれている。この日付のズレがそもそも不可解だ。
なんだかおかしい。音楽作品の献呈という行為に一定の基準があったという話は聞かないが、ダブルブッキングはいかにも座りが悪い。
これよりブログ「ブラームスの辞書」名物、「お叱り覚悟の暴走」に入る。
クララ・シューマン最後の作品とされているロ短調のロマンスがある。作品番号は付与されていない。この作品はブラームスのピアノソナタ第3番の第4楽章「Andante molto」と同じ主題を持っている。クララ自身の日記によれば1855年4月2日の作曲だ。
作品21の「3つのロマンス」の第1番はこのロ短調が来るはずだったのではあるまいか?出版社かクララのどちらかまたは双方に勘違いが発生した結果、第1番がロベルトに献呈済みのイ短調にすり替わった可能性を考えたい。ブラームスへの献呈なら第3ソナタからの主題の引用があるロ短調の方が相応しいと感じる。
そうとでも考えねばこのダブルブッキングは切な過ぎる。
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