影響まみれ
古今の大作曲家同士相互の影響について語ることは愛好家にとっての楽しみの一つである。我が愛するブラームスなんかは、いわば「影響まみれ」である。
先輩作曲家の作品を自ら進んで研究したし、楽譜の出版に際して校訂をした作曲家も両手の指に余る。だからという訳でも無さそうだが、ブラームスの作品には、他の作曲家からの影響を指摘する論述には事欠かない。バッハ、ベートーヴェン、シューマン、モーツアルトを筆頭に華麗な名前が並ぶ。それでいて結果として遺された作品に、ブラームスの個性がクッキリと刻印され、埋没することはない。まさにそこがブラームスの真骨頂とも映る。
一方私が最近のめり込んでいるドヴォルザークは、いわゆるクラシック音楽の保守本流から少々はずれた地域から台頭した。シューベルト、モーツアルト、ベートーヴェンあたりの作曲家を研究したことにはなっているが、ブラームス風の「影響まみれ」にはなっていない。世に出る恩人のブラームスの影響さえ限定的だ。ブラームスからの影響が取り沙汰されている作品もあるにはあるが、どちらかというとマイナーな扱いになってしまっている。あるいはワーグナーからの影響が色濃いとされるオペラには決定的なヒット作が無い。
おそらくドヴォルザークを世に出したブラームスは、誰の手垢もついていない無垢なドヴォルザークの才能を愛したのだと思う。
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