割り込み
「シューマンの主題による変奏曲」op9が2段階の手続きを経て完成したことは昨日の記事「シューマンの主題を巡りて」で述べた。
- 1854年6月11日頃 仮バージョン完成。第10変奏と第11変奏を除き完成。
- 1854年6月11日はロベルトとクララ夫妻にとっての最後の子供フェリクスの誕生日だ。
- 1854年8月11日聖クララの日 第10変奏と第11変奏の作曲。
- 1854年11月27日付けのロベルトの手紙にこの作品への言及が見られる。
既にロベルト・シューマンは入院中だ。
フェリクス出産後のクララへの見舞いとして書かれた曲だと位置づけ得る。この時抜けていた第10と第11の二つの変奏が8月11日の聖クララの日に補われたことは象徴的だ。このうちの第10変奏では曲中初めてクララの主題が現れるからだ。残り2小節で中音域にさりげなく現れる。曲はそれを合図に大詰めへのアプローチを始めると考え得る。これ以降の6つの変奏を通じて「ロベルト・シューマンの主題」がクララの「ロマンスヴァリエ」op3の主題と融合し得ることが語られる。さらにロベルト・シューマンの手による「クララ・ヴィークの主題による即興曲」op5との関係までもが仄めかされるのだ。
第10変奏こそがそうしたアプローチへの起点になっている。
おそらく11月にロベルトが見たのは、最終決定稿だ。つまり第10変奏も第11変奏も含まれていた。作曲者ブラームスの他には一人クララだけが仮バージョンを知っていたことになる。つまりクララだけが第10変奏と第11変奏の付加を知っていたのだ。ブラームスの意図は「ロベルト・シューマン」「クララ・シューマン」「クララ・ヴィーク」の3人の主題が融合し得るという音楽的なメッセージだ。
第10変奏と第11変奏の割り込みにはそうした意図があるに違いない。
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