クラヴィーア組曲イ短調
「組曲」とはバッハに親しんでいると、しばしばお目にかかる。さまざまな古典舞曲の集合体だ。もう既にバッハの時代には、踊りという原義は薄れ、器楽曲の形式に特化していた。
- アルマンド
- クーラントまたはコレンテ
- サラバンド
- ジーク
上記4つは必ず含むことが組曲の掟になっている。サラバンドとジークの間にメヌエットかブーレかガヴォットが挿入されるので、この3者は挿入舞曲と総称される。このほかにはアルマンドに先行してプレリュードが置かれることもある。こうした掟が厳格なのが組曲で、緩いのがパルティータだそうだ。エアやドゥーブルやパティシエやスケルツォが加えられることもあるが、どちらかというとそれらは例外だ。これらの古典舞曲が組曲やパルティータの名のもとにひとまとまりにされる時、全てが同じ調になる。この決まりはかなり厳格で、メヌエットの中間部で平行調を採用することが許されているだけだ。
ブラームスの作品番号無き作品のリストを眺めていると、以下の通り古典舞曲に行き当たる。
- ガヴォット イ短調、イ長調 WoO3
- ジーク イ短調、ロ短調 WoO4
- サラバンド イ短調、ロ短調 WoO5
イ短調とロ短調に集中しているのが興味を惹く。同じ調のクーラントかアルマンドがあれば組曲の完成である。クララ・シューマンの1855年9月12日の日記にはブラームスが、イ短調の「完全な組曲」を突然見せてくれたことに驚きとともに言及している。日付から見てこれはクララの誕生日9月13日を意識したプレゼントだと解するのが自然だ。さらに驚いたことにそこにはプレリュードとアリアが含まれていたと証言されている。「完全な組曲」とは本来組曲を構成する舞曲が抜けることなく揃っているという意味だ。マッコークルはブラームス作品目録の中でそのプレリュードとアリアを「失われた作品」と位置付けている。お察しの通り前記の一覧にあるガヴォット、ジーク、サラバンドのうちそれぞれイ短調の作品がこのイ短調クラヴィーア組曲を構成していたということに他ならない。
20歳そこそこの若者にしては、エレガントなプレゼントだと思うが、新たな謎の始まりでもある。上記のリストの中のイ短調の作品群についてはよくわかった。残るロ短調の作品はいったい何のためなのだろう。
<yoshimi様
いらっしゃいませ。
イ長調のガヴォットとイ短調のサラバンドが弦楽五重奏の1番の2楽章に引用されています。よろしければ是非そちらも。
投稿: アルトのパパ | 2009年9月 5日 (土) 13時24分
こんにちは。いつもいろんな発見のある記事なので、楽しく拝見しております。
ブラームスのピアノ曲全集の楽譜やCDは持っていますが、作品番号のない曲は収録されていないので、この組曲系統の曲は聴いたことがない曲です。
録音を探して聴いてみましたが(ビレットのNAXOS盤)、形式がかっちりしているせいか、ブラームスにしては和声がかなりシンプルな感じですが、いずれも良い曲ですね。特に短調系の曲が好みです。
”失われた作品”も含めた完全版がどんな曲だったのか、聴いてみたくなります。いつか楽譜が発見されると良いのですが。
投稿: yoshimi | 2009年9月 5日 (土) 08時37分