入札競争
昨日の記事「報酬の相場」でブラームス作品の原稿買い取り価格について、曲種ごとに基準があると書いた。ブラームス本人とジムロックの蜜月関係を背景に、ブラームス作品の出版を事実上ジムロックが独占する中から成立したものであると推定する。
一方ドイツ楽壇の重鎮ブラームスの作品を是が非でも自社で刊行したいと考える競合他社がいても不思議ではない。交響曲第3番の原稿買い取りに20000マルク(1000万円)を提示する出版社が現れたのだ。先の買い取り基準で申せば交響曲は15000マルク(750万円)だから、ざっと相場の3割増しの提示である。
ブラームスも心が動いたとされている。
この時。原稿買い取り額の提示で5000マルク出し抜かれたジムロックは、ブラームスに弁明の手紙を書き送る。ブラームス作品をトラブル無く出版し続けてきた実績を淡々と訴え、今後もその姿勢を継続する決意を述べている。今回思い切った提示に踏み切った競合他社は単にカタログを飾りたいだけで、他の作曲家の売れない作品との抱き合わせを目論んでいるのではないかと警告を発した。凄いと思うのは、ブラームスの交響曲1曲に支払える原稿料は15000マルクが限界だと告白している。その理由として「それ以上の支払いは経営に影響する」と言っている。
これに対するブラームスの書簡を確認出来ていないが、結果は事実が雄弁に物語っている。ブラームスは第3交響曲の出版を従来通りジムロックに委ねている。5000マルク(250万円)も低い提示にもかかわらずジムロックを選択したことになる。
ジムロックの感謝の言葉は残っていない。しかしマッコークルには、思わぬ痕跡が残る。あれほど詳細で事細かに作品買い取り価格を明示しているマッコークルが、交響曲第4番とヴァイオリンとチェロのための協奏曲について不明となっている。さらにクラリネット五重奏曲と三重奏曲も一括して出版しながら、その買い取り価格は不明である。
これら4曲についてジムロックとブラームスの間に、買い取り価格の密約が存在した可能性を考えている。特に交響曲第4番の買い取り価格は20000マルクではなかったかと思っている。
何のかんので蜜月な二人である。
« 報酬の相場 | トップページ | ジムロックという男 »
« 報酬の相場 | トップページ | ジムロックという男 »
コメント