称賛と値切りと
1889年ジムロックは、ドヴォルザークのピアノ四重奏曲変ホ長調の原稿を受け取った後、感激した筆致でブラームスに書き送る。
「ドヴォルザークの頭の中は楽想で満ちているようだ」
大出版社の経営者でありながら音楽への深い素養を持つジムロックのこの手紙は、称賛である。ソナタの枠組みにとどまりながら、みずみずしい旋律がてんこ盛りだ。ブラームスからの返信が確認出来ないのが残念でさえある。ドヴォルザークへの返信の中に、作品を称賛する文面が見られても、それは単なる儀礼という可能性もあるが、利害関係の無いブラームスへの手紙で称賛する文面が現れるのは、本心からの言葉だろう。
48歳、円熟の域にあるドヴォルザークは続いて第8交響曲に着手しまもなく完成にこぎつける。ピアノ四重奏を絶賛したばかりだというのにジムロックの仕打ちは残酷だ。第8交響曲の原稿料として「1000マルク」を提示して、押し問答が始まる。
「称賛は称賛、商売は商売」という切り替えの早さは、まさに経営者そのものだ。
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