実務的
音楽之友社刊行の「作曲家◎人と作品」シリーズのドヴォルザークの中67ページだ。ブラームスからジムロックに宛てた手紙が引用されている。1878年のことだ。もちろん和訳されている。内容はおよそ以下の通り。
- ブラームスがドヴォルザークを知ったきっかけ。オーストリア国家奨学金に応募してきた経緯。
- モラヴィア二重唱成り立ちと出来映え。
- ドヴォルザークの才能の豊かさと貧しさ。
- ドヴォルザークの住所。
- モラヴィア二重唱出版の奨め。
基調はモラヴィア二重唱を称賛する文面なのだが、出版を奨めるくだりには「出版に際しても実務的な作品」と表現している。オリジナルがどのようなドイツ語か不明なのが残念だが、この「出版に際しても実務的」という言い回しが気にかかる。
「モラヴィア二重唱を出版したら売れるぞ」という意味の遠まわしな表現ではあるまいか。作品が素晴らしい上に売れそうだと言っているのだ。そこそこ素晴らしい作品が、実際には大して売れないということもあったのだと想像する。音楽的に充実していて、なおかつ売れそうという曲だからこそ、わざわざ手紙でジムロックに推薦したと考えたい。
当時の欧州は家庭アンサンブル用の小編成の作品に、小さからぬニーズがあったと思われる。上記の手紙のやりとり以前、ブラームスにもその手の作品がある。
- 1866年 ピアノ連弾用「16のワルツ」op39
- 1869年 ハンガリア舞曲第1集、第2集
- 1874年 愛の歌op52
- 1875年 新愛の歌op65
他に、ほとんどの管弦楽と室内楽についてピアノ連弾用を本人が編曲している。これら家庭用小アンサンブル作品の刊行をした経験から、この手の作品が売れるということを、ブラームス自ら熟知していたと感じる。
作曲家ブラームスは、実は出版業界の事情にもかなり明るかったのではないかと思われる。先の手紙は単に音楽的な素晴らしさの指摘にとどまらずに、好調な売上をも予見していたと解したい。
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