いけにえ
大切なことを実現するために差し出される物のこと。いわば願をかける神に捧げる担保だ。昔は生き物の命を捧げていたのだ。
ブラームスがモーツアルトのアンダンテを聴いていたときのエピソードだ。曲名は不明ながらアンダンテということは確からしい。隣で聴いていたリーズルことエリザベート・フォン・ヘルツォーゲンベルクに耳打ちした。
「こんなアンダンテが書けるなら僕のガラクタ全部やっちゃうよ」
ブラームスのモーツアルトへの敬愛ぶりが伺える話だ。自作全部と交換に応じてもいいという意味だ。一途で健気なブラームスである。
ドヴォルザークにも似たような話が伝わっている。自作全部をいけにえとして引き換えという意味では先のブラームスと同じだが、ドヴォルザークの方が数段大胆だ。「もし本物の機関車が手に入るなら、自作全部と引き換えでも構わない」とつぶやいたという。ドヴォルザークは相当な鉄道マニアだったのだ。プラハからドレスデンに向かう鉄道が故郷のネラホセヴェスを通っている。プラハ・ジトナー通りの自宅はフランツ・ヨーゼフ駅の至近だ。列車の走行音の異常に気付いて、車掌に知らせて事故を未然に防いだ話もある。アメリカ行きを承諾したのは大陸横断鉄道を見たいからという説もあるくらいだ。
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<ひふみ様
ニューヨークの鉄道関係者はプラハほどフレンドリーではなかったので、仕方なく汽船にしたとも言われています。
投稿: アルトのパパ | 2009年12月 9日 (水) 05時26分
ドヴォルザークは汽船も好きだったようですよ。
港に入ってくる船の汽笛を聞いただけで、
どこの国の何と言う船か、果ては何トン船とかまで当てたそうですね。
どこかの国のいつかの時代のだれかのパパさんみたいですね(笑)
投稿: ひふみ | 2009年12月 8日 (火) 22時17分