ワルツ
元は生粋の舞曲。農民の間で踊られていたものが、市民層の台頭により都市でももてはやされるようになった。ウィーン会議を皮肉った言葉「会議は踊る」で世界的に有名になるのがウインナワルツだ。ロマン派以降の作曲家は、多楽章作品の一部にワルツを取り入れる。ベルリオーズやチャイコフスキーが有名だ。ショパンやブラームスによって単独のピアノ作品にも取り入れられる。
ブラームスの「16のワルツ」op39が、シューベルトのレントラー研究の成果であることは有名だ。このうち大半はゆったりとしたレントラーに近い。急速なテンポを持つのは11番と14番くらいだ。
ショパンやブラームスに比べて知名度は今ひとつだが、ドヴォルザークにもワルツがある。「8つのワルツ」op54だ。これがまた素晴らしい。ブラームスとの違いだけで申せば、何よりもまずテンポだ。1番が「Moderato」なのを除けば、他は軒並み「Allegro」を切らない。レントラー色が際だつブラームスとは対照的だ。1879年の作品だからブラームスの「16のワルツ」op39よりは10年以上遅い。
作品を聴いたジムロックは、「スラブワルツ」か「チェコワルツ」というタイトルを提案した。つまり、生粋のワルツとは趣が違うと見抜いていたのだ。ワルツを象徴する「ブン・チャッチャ」の出現は限定的だ。最終的に「ワルツ」がタイトルとなったが、こうすることで受け手に生じる「ワルツ」のイメージの裏をかくのがドヴォルザークの狙いだとも感じる。ブラームスが示した「ワルツ」と「レントラー」のせめぎ合いよりも数段強烈な効果を持っている。
- 1番 イ長調 曲集全8曲の序奏という位置づけか。主部はむしろサラバンド風だ。「ブンチャッチャ」が一瞬出現する中間部は、悩ましくも美しい。ブラームスの名高い15番への敬意かもしれない。ドヴォルザーク本人の手で弦楽四重奏に編曲されているのもチャーミングだ。
- 2番 イ短調 4分の3拍子の1小節を8つに割る右手、つまり8連符と実直に4分音符3個を詰め込む左手のせめぎ合う序奏だ。一旦このせめぎ合いが姿を消す主部は、装飾音が華麗な「ドナウ川のさざなみ風」だ。中間部でまた8連符登場。明確な「ブン・チャッチャ」は現れずじまいだ。
- 3番 ホ長調 アウフタクトの3拍目が強調されることで「4拍+2拍」のフレージングになっている。ブラームス風なリズムの錯綜が、心地よい。
- 4番 変ニ短調 華麗な序奏に続いて、やっとワルツ本来の「ブンチャッチャ」が現れる。嬰ハ短調にしない異名同音のひねりが効いている。これにも本人編曲の弦楽四重奏版がある。
- 5番 ト短調とは言うものの、いきなり変ロ長調から変ホ長調への連鎖で始まる。「ブンチャッチャ」は聞こえるが調が不安定。中間部に入ってト短調が安定するのと入れ替わりにリズムの仕掛けが顔を出す。頑固に4分の3拍子を貫く左手に対して、右手は8分の6拍子に変わる。
- 6番 ヘ長調 テンポが少し手加減されたことでレントラー風の味わいになる。
- 7番 ニ短調
- 8番 変ホ長調 自転車にくくりつけて走る風車のよう。実質「2分の3拍子」と「4分の3拍子」の急速な交代だ。主旋律がすぐにロ長調で確保されるのも斬新だ。華麗なコーダは、曲集のフィナーレにふさわしい。
有名にならなくていい私の宝物。ブログでこうして言及してもCDや楽譜が見つけにくいから、ブレークはしないだろうと読んでいる。
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