講評
多くの場合、成績発表の後に発せられる審査員のコメントのことだ。
ドヴォルザークの受賞を決定した1874年のオーストリア国家奨学金の審査員たちのコメントが一部紹介されている。音楽之友社刊行の作曲家◎人と作品シリーズのドヴォルザークの63ページだ。
曰く「ウィーン古典派の語法に対する目配り」とある。ドヴォルザークはこのとき交響曲と室内楽いくつかをもって応募したことが判っているから、このコメントは意義深い。いわゆる「ソナタの伝統」に乗っていますねというニュアンスを濃厚に含む。もっというなら「昨今流行の標題音楽に走っていませんね」という裏読みさえ可能だ。
しかし、伝統に沿っているというだけにとどまらないところがドヴォルザークの真価だ。審査員のコメントがもう一つ。本当に評価されたのは「真の創造的直感」だという。「真の創造的直感」とは何ぞ。ドイツ系文書特有の観念的遠回し語か。ちょっと難しく言ってみるのが微笑ましい。早い話が「きれいな旋律」だ。
つまりきれいな旋律の数々が古典派伝統の正当な手続きで次々と披露される点、審査員を唸らせたと解し得る。
「シューベルトと並び賞賛される旋律的才能」「19世紀後半にあって絶対音楽の領域にとどまった作品」等ドヴォルザークの作風を評する際に用いられる言葉が、既にこの講評の中に凝縮されていると見た。
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