公と私
ブラームスがイタリア旅行好きだったことは一昨日述べた。ブラームスのイタリア旅行が8回を数える一方でドヴォルザークは一度もイタリアを訪問していない。
ところがドヴォルザークが生涯で9回訪れたイギリスだというのに、ブラームスは一度も訪れていない。再三の招きにもかかわらず頑として訪英を拒んだ。
イタリアのブラームス、イギリスのドヴォルザークの対照ぶりが見事でさえある。
さらに付け加えねばならないことがある。ドヴォルザークの訪英は全て何らかの招待に応じた体裁をとっている。学位の授与であったり自作の演奏であったり、あくまでもオフィシャルな行事である。行く先々でコンサートやレセプションが開かれた。ロイヤル・アルバートホールではヘンデル、メンデルスゾーンにも匹敵する熱狂的喝采を受けたほどだ。報酬も莫大なものがあった。
ところが、ブラームスのイタリア訪問はすべてプライヴェートな旅行だった。目的は遺跡や美術館の訪問だ。音楽を遮断した旅である。作曲どころか演奏もしていない。お金は出る一方の散財の旅路だったが、不思議なことにイタリアオペラを鑑賞していないのだ。あくまで一個人のプライヴェートな旅ではあるのだが、妙なこだわりも感じる。旅先では何よりもまず、当代屈指の大作曲家として遇されることを嫌った。普通のホテルや民宿に普通に寝泊りした。
公のドヴォルザーク、私のブラームスである。
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