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2010年5月11日 (火)

荒削り

微妙な言葉だ。手許の辞書には「物事の仕上げが不十分なことのたとえ」とある。あまりよくないニュアンスが感じられる。そうした一方で「伸びしろの大きさ」「ふところの深さ」が込められているケースも見かける。

音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻ホイベルガーの記述によれば1887年12月4日、ウィーンフィルがハンス・リヒターの指揮でドヴォルザークの「交響的変奏曲」を演奏したことがわかる。ブラームスがこれを聴いた感想をホイベルガーに述べている。

「すごい。ちょっと荒削りで、なんというか野性的なんだ」

ホイベルガーはブラームスが感激して夢中で述べたと証言している。ブラームスの「荒削り」「野性的」という表現には否定的なニュアンスは感じられない。

1877年に完成したドヴォルザークの管弦楽作品だ。管弦楽のための変奏曲はあまり数が多くない。御大ブラームスには至宝「ハイドンの主題による変奏曲」があるから、案の定ドヴォルザークが手本にしていた可能性を指摘する向きは多い。けれども根拠が明示されていることは少ない。世の中に多いとは言えないジャンルにブラームスとドヴォルザークが作品を残していれば、後から出した方に影響があってと論ずることはありがちなことである。根拠を示さぬ指摘なら中学生でも出来る。もう少しロジカルにならないものだろうか。

そんなことより作品番号のない男声合唱曲B66-3「ヴァイオリン弾き」という作品の旋律がそっくり転用されている。そのせいなのかどうか定かではないが、途中にコンサートマスターによる繊細なソロがある。先にその合唱曲を聴いておくと味わいが一層深まることを付け加えておく。

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