マリチコスチ
チェコ語で「バガテル」のことだ。ドヴォルザークにはマリチコスチがある。「2つのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとハルモニウムのためのマリチコスチ」op47である。6月6日の記事「さすがチェコ」で、CDを発見したとはしゃいだ。「聴いていると自然に身体が動き出すような」としか言えない健全なフォークダンス感が尊い。
ブラームスのご加護か、ドヴォルザークのお導きか、この程楽譜を入手出来た。パート譜だが、文句は言えない。ハルモニウムのパート譜には全部の楽器の動きが載っているから、事実上の総譜状態になっている。お店の人によれば総譜は出ていないそうだ。2280円を喜々として支払った。
単に聴いていた時は、楽しい舞曲としての側面が際立っていたが、楽譜を見ながら聴くと仕掛け満載で驚く。第1楽章冒頭の主題が、あちこちに埋め込まれている。特筆せねばならないのは第4楽章のカノンだ。
ドヴォルザークお得意の「舞曲羅列型」作品の中にあって、「カノン」というタイトリング自体、そもそも浮いている。第1楽章がト短調の室内楽としては、ホ長調という調性の選択も面白い。続く第5楽章がト長調でありながらイ短調で始まるスラブ風だから、そのイ短調の準備としてのホ長調かとも思う。
アンダンテ・コン・モート、8分の3拍子で第一ヴァイオリンによって開始される主題をチェロが1小節遅れて追いかけるという注文通りのカノンだ。8分音符3個分の差で進んで行くが、第2主題になると、8分音符1個分の差になってしまう。譜例無しでは説明が難儀だ。3つの弦楽器とハルモニウムの2つの手によって形成される5つの声部が、めまぐるしく役割を変える巧妙なカノンになっている。先後2声部がいつの間にか3声部に増える。中間部では、3声部が8分音符1個の差で主題を歌う。
見事だ。聴いた感じは遅めの舞曲にしか聞こえないが、ブラームスのお株を奪うような超複雑なカノンになっている。この手の聞こえと譜面づらの落差は、えらくブラームス風だ。
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