さざなみの系譜
「ブラームスの辞書」では2つの音が交互に繰り返される音形をしばしば「さざなみのような」と表現している。実例は以下の通りである。
- 弦楽六重奏曲第2番第1楽章冒頭 第1ヴィオラ。GとFisが移弦を伴って延々とくり返される。
- 交響曲第1番第4楽章31小節目 ヴァイオリンとヴィオラ。Piu Andanteの2小節目。アルペンホルンのバックに配されたさざなみだ。
- チェロソナタ第2番第1楽章冒頭 ピアノ。AとFisの交代だ。
- 弦楽五重奏曲第2番第1楽章 ヴァイオリン2本とヴィオラ2本。
見ての通り全てが伴奏のパートに現れる。さらにこのうちの3番目と4番目は1886年、1890年という具合に作曲年が近い。ソプラノ音域に置かれたさざなみの下、テナーまたはバリトンの音域で雄渾な旋律が放たれる。ダイナミクスはほぼフォルテと思われる。そしてどちらも第一楽章の冒頭つまり作品の冒頭だ。
まさかと思うことがある。
この作品冒頭におけるさざなみの系譜は、1892年に生まれたドヴォルザーク室内楽の最高傑作、弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」の冒頭にひそかに受け継がれているような気がする。
お叱りはもとより覚悟の上でござる。
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