奇跡のクランク
ライン川はスイス・ボーデン湖に発して北海に注ぐ大河だ。概ね北に流れる。ところがずっと下ってきて左岸にマインツを臨むあたりで西に向きを変える。北岸にはブラームスが第3交響曲を作曲したヴィースバーデンがある。そこからビンゲンで北に向きを変えるまでの約30kmの間、西または西南西に流れる。つまりこの間だけは東から西に流れるということだ。このクランクが、ドイツワインに奇跡をもたらした。
一昨日の記事「二大産地」で取り上げたシュタインベルクとヨハニスベルクは、どちらもラインガウに属する。2山5城とは実はこの大産地ラインガウ(Rheingau)の中の名門を総称する言い回しに過ぎない。ラインガウはライン川が東から西に流れるわずか30kmの部分の北岸丘陵地を指す呼び名だ。
東西に流れるライン川の北岸の丘陵地ということが立地として重要だ。川に面した南向きの斜面がいたるところにあるということだ。川からおよそ500m以内の畑ならば直射日光に加えて、水面に反射した光もアテに出来るという。おまけにこのあたりのライン川は周辺より川幅が広い。優秀なブドウを生み出す条件はまだある。土壌や川霧の発生なども見逃せない。霧は極端な低温からブドウを守る効果がある。そしてここでも地名は雄弁だ。地名語尾「ガウ」(gau)は、豊かな森と水を意味する。
もしこのクランクが無かったり、少々北にずれていたらと思うと背筋が寒くなる。クランクによりもたらされる約30kmの西流の間、ラインの北側の岸辺がほぼ北緯50度線と一致する奇跡も合わせて味わいたい。
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